世界の宝石市場：概要
ロマンチックでストーリーのある歴史をもつ宝石およびその取引は、文明が始まって以来、人類を魅了してきました。
ロマンチックでストーリーのある歴史をもつ宝石およびその取引は、文明が始まって以来、人類を魅了してきました。現在、宝石市場は230億ドル規模の世界的な産業となっており、数百か国の国々から、何千人にもおよぶ採掘者、トレーダー、ディーラーが携わっています。
エメラルドやルビー、ダイヤモンドなどの天然石はザンビア、南アフリカ、ブラジル、タイ、モザンビークといった国から調達されており、世界中のコレクターや小売業のバイヤーに販売されています。ここでは最も人気のある宝石市場や製造・取引拠点、展示会の概要を説明し、現代における宝石取引を簡単にご紹介します。
宝石取引市場は世界中のあらゆるところにあります。主要な取引拠点は国際都市にあり、小規模な拠点は鉱山に近い場所にあります。主要な宝石取引市場や有名な取引拠点の多くは天然石が産出される国、またはその国に隣接している場所に構えられています。
コロンビアの鉱山は、世界のエメラルドの供給量の70％以上を占めており、世界で最も純度の高いエメラルドを産出することでも知られています。そのため、コロンビアの首都であるボゴタは、世界のエメラルド取引の中心地となっています。ボゴタのエメラルドトレードセンターはヒメネス通り5-43にあり、原石からルース（加工済の宝石）まで、あらゆるエメラルドを扱っている取引拠点です。センターの周りには自身が見つけたエメラルドを売る非公式な露天商が並ぶ一方、センターの中には市場でもっとも純度の高い宝石を販売する業者が入居しています。
スリランカの南海岸の街、ベルワラにあるチャイナフォートは、さまざまなカラーストーンの取引拠点として有名で、歴史がある拠点です。取り扱われている宝石には、金緑石、スピネル、トルマリン、ムーンストーン、ガーネットなどがありますが、最も多く販売されているのは地域原産のサファイアです。世界中のバイヤーが定期的にこの地を訪れ、様々な価値のルースを購入しています。
宝石取引はこの地域に欠かせないビジネスであり、その歴史は数世紀前まで遡ります。スリランカの宝石商の起源は、宝石と香辛料を求めてスリランカに移住したムーア人の移民達です。宝石の伝統的なカットであるムッカラージュは、ムーア人に対するスリランカ人の呼び名である「ムッカラ」からつけたものです。このように、今日における宝石取引の多くは、ムーア人によって形作られたものなのです。
ミャンマーは、ルビーやサファイア、ヒスイ輝石など、様々なカラーストーンの代表的な産地です。実際に世界のヒスイ輝石の90％はミャンマーで産出されています。ミャンマーは数多くの宝石の豊富な産地であることに誇りをもっており、ビルマ産の最高の宝石を展示するための博物館を設立しました。
ミャンマーのヤンゴンにあるミャンマー宝石博物館は、極めて優れた宝石を見るためには最適の場所です。ここには、博物館という機能だけではなく、最高品質の宝石を購入することができる市場も備えています。この市場では、ルビーやサファイア、パール、ヒスイ輝石などが売られており、3つのフロアにわたって82個の店舗が存在しています。また、この建物では世界中の宝石商が参加するミャンマー・ジェムズ・エンポリアムも開催されています。
インドやタイの多くの都市は、有名な宝石取引市場の拠点となっています。ここでは世界中から輸入されたダイヤモンドやカラーストーンが多く取引されています。代表的な取引拠点には、ジャイプール、チャンタブリー、バンコクなどがあります。
ジャイプールは世界的なエメラルドのカットと取引の中心地です。原石の多くはザンビアとブラジルから輸入しています。20万人以上を雇用しており、現在はカラーストーンに加えてダイヤモンドの輸出量も拡大しています。ジャイプールは、まさに宝石業界を支える存在になりつつあるのです。
タイのチャンタブリーは、様々な品質や種類の宝石を購入できる注目の場所ですが、その中でもルビーとサファイアの取引において特に有名です。チャンタブリーの宝石・宝飾品センターは、独自の市場を持ち、完璧に近い石のカット技術で知られています。バンコクは世界の宝石の首都と考えられていますが、それには理由があります。卸売業者の多くが、小売価格を非常に高く設定できるレベルの高品質なカラーストーンを最安値で販売しているからです。
主要な宝石市場はアントワープを抜きにしては語れません。最高品質のダイヤモンドを購入したい場合、アントワープは世界一おすすめの拠点であり、15世紀以来、ダイヤモンドの取引拠点としては最大規模を誇っています。世界のダイヤモンド原石の約84％、そしてカットダイヤモンドの約50％がアントワープを経由しています。取引は主にダイヤモンド地区で行われています。この地区には、1平方マイル内に1500社以上のダイヤモンド関連会社が存在しています。
特定の条件に当てはまる宝石を求めて、世界中を探し回るには、時間と費用をふんだんにかける必要があります。特に小規模な企業や個人のバイヤーにとっては、大きな負担となってしまうでしょう。そのため、宝石取引に携わる人は、宝石の展示会に定期的に足を運んだり、オークションに参加したりして求めている宝石を購入することが多いです。また、こういった場では業界での人脈を広げることも可能です。
ツーソン・ジェム・ミネラルショーは世界一長い歴史があり、世界最大の規模を持つ宝石展です。1970年代に始まり、プロの宝石キュレーターや教育関係者、趣味で宝石に関わる人、一般の人など多くの人を集めています。また、学生や非営利団体、地球科学の団体、宝石鑑定士の人々も招待しています。250社以上の小売業者が集まり、ミネラルや化石、宝石、宝石細工を一般顧客向けに販売しています。また、近年展示されたローガン・サファイアやオズロックス・ゴールドナゲットなどのような特別展も開催されています。次回の宝石展は2022年2月10日から13日まで、アリゾナ州のチャーチアベニュー、260 Ｓのツーソンコンベンションセンターで開催予定です。
香港インターナショナル・ジュエリー・ショーもまた、年に一度開催される宝飾展です。1983年に始まり、55ヶ所以上の国と地域から3,600人以上の出展者が集まる、世界最大規模のB2Bの宝飾展です。主な展示物は純銀やアンティークの宝飾品ですが、ジュエリー用の工具や機器、またディスプレイやパッケージ用の素材も展示されています。また、ダイヤモンドやカラーストーン、パールなども取引されています。メインの展示会は2021年の7月25日から29日に香港コンベンション・エキシビションセンターで開催されますが、他の展示会は3月、6月、9月と年間を通して開催されています。
バーゼルフェアは高品質のジュエリーや貴重な宝石を集めた展示会で、年に一度開催されます。スイスで開催されるこの展示会は1917年に初めて開催され、現在では45か国以上から2,100人にも上る出展者を誇り、10万人近い来場客を集めています。宝石の新たな知識や業界の最新のトレンドを知るには絶好の場所です。直近では2021年6月23日に開催されました。
宝石のブローカーやコレクターは、オークションで特定の宝石を探すことがよくあります。サザビーズやクリスティーズ、ティエンチェン・インターナショナルなどの有名なオークションでは、宝飾や希少な宝石に限定したオークションをよく企画しており、宝石業界のプロが多くの宝石を見たり、入札したりできる機会になっています。これらのオークションで扱われる商品の大部分は宝飾品で、石座にセットされていない宝石は滅多に取引されません。また、オークションではアンティークや希少なコレクターアイテムも出品されます。ここからは、世界で最も有名なオークション会社をいくつかご紹介します。
サザビーズは、サミュエル・ベイカーによって1744年に設立されたアメリカの宝石オークション会社で、本部はニューヨークにあります。しかし世界各地にも拠点があり、40か国に80ヶ所以上の拠点を持っています。さまざまなジュエリーや高品質の宝石などが出品される、多数のオークションが年間を通して開催されています。オークションには直接参加することもできますが、サザビーズのウェブサイトからオンラインで参加することもできます。
クリスティーズは1766年にジェームズ・クリスティーによって設立されたイギリスのオークション会社です。さまざまなジュエリーや希少価値の高い宝石を販売しています。オークションはロンドンやパリ、ニューヨークなど世界中の主要都市で開催されています。オークションの多くは、クリスティーズのウェブサイトからオンラインで参加することもできます。2016年5月にクリスティーズが販売したオッペンハイマー・ブルーというダイヤモンドは、5,683万7000スイスフランで落札され、宝石としては過去最高の落札額を記録しました。
わずか10年前である2011年に設立されたばかりですが、ティエンチェン・インターナショナルはすでに大手の宝石オークション会社の仲間入りを果たしています。中国を拠点としており、ヒスイ輝石の販売に特化しているニッチなオークション会社です。アンジェリーナ・ジョリーやサラ・ジェシカ・パーカーといったセレブがティエンチェン・インターナショナルにジュエリーを出品し、様々な慈善活動の団体に収益を寄付しました。オークションは毎年数回開催されており、直接の参加とオンラインでの参加が可能です。
宝石取引業界は、他の業界と比較にならないほど刺激的かつ有名な業界ですが、ここで成功者になるためには、優れた審美眼、申し分のないコミュニケーションスキル、そして複雑な宝石分野の知識を学ぼうとする努力が必要です。家宝であったり、新しく購入した宝石であったり、形は様々ですが、宝石はこれから何世紀にもわたって人類を魅了し続け、大陸間の往来や取引を活発にする存在であり続けることでしょう。
